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ダダダッと廊下を駆け抜けて、大きな音で先輩の部屋の襖を開けた。
かなり驚いた顔でこちらを振り返った先輩に向かって、
せんぱい、せんぱい!宿題教えて!
って言ったら、先輩は、いいよ、どこが分かんないの?って。
先輩は、にっこり笑って言ってくれた。
あぁ、やっぱり先輩は可愛くて優しくてさいこうだ!
襖を今度は音を立てずに閉めて、先輩の隣に座ると、
オレの問題集を覗き込んだ先輩は、どこ?と首を傾げて、
オレが質問しやすいようになのかな、またにこって笑ってくれた。
「これ、何て読むの?」
「これって、どういう意味なの?」
「この術、難しい?」
「どうやって覚えたら、いいのかなぁ?」
オレが聞いたことひとつひとつ、先輩は答えを教えてくれたり、
オレが考えて問題を解けるように、ヒントを言ってくれたり、
途中で間違えそうになったら、一緒に分かるまで教えてくれるし、
問題解けたよ、って言ったら、採点もしてくれる。
あと、合ってたら、頭も撫でてくれる。
そんな、先輩の優しい心遣いに甘えていたくて、
いつもいつも、ほんの少しでも先輩と一緒に居たくて、
オレはたくさん質問をする。
分からないのは本当だけど、それ以上にたくさんかも知れない。
先輩の教えてくれることはほんとうにためになって、
少しだけ、オレも賢く慣れたような気がする。それも嬉しい。
でも、先輩と一緒に居ることの出来る時間を引き延ばしたくて
勉強をしたから頭がよくなる、というのは、結構現金だ。
先輩と一緒の時間は、本当にあっという間に過ぎていってしまうから、
就寝前に訪ねてしまった今日のような日には、
オレもだけれど、先輩もうとうとしてしまうことがある。
今日も例外じゃなくて、オレはまだ平気だったけれど
先輩は、さっきからまぶたをこすったり、あくびをかみ殺したりしていて、
少しだけ、罪悪感を感じる。もうちょっと、早くこればよかった。
でも、そういうときにじゃなきゃ、質問できないこともある。
「せんぱい、あのさぁ」
「うん?…なぁにぃ?」
「オレ、いつも迷惑かけてばっかりでごめんね」
「そんなの、気にしてないよーぉ」
「…ありがと」
「いーえー」
眠いねぇー、と先輩が机に突っ伏した。
聞くなら、今かな。
ちょっと、遅かったかな。
いいか。
「オレさ、」
いくら、オレの顔が赤くても、先輩には見られない。
大きく息を吸い込んで、先輩の耳元で。
「先輩の事、大好きだよ」
どきどき、する。
言葉を口にしたときよりも、その後の沈黙に。
心臓の音をごまかそうとして、先輩に、先輩の髪に触れた。
びくりと震えたのは、先輩だったのか、オレだったのか。
多分、ふたりとも、だ。
「せんぱい?…ねぇ、聞いてる?」
先輩は、狸寝入りがへただ。
真っ赤にそまった頬が、隠せてない。
そっと先輩に触れたら、先輩の頬が
オレの頬と同じくらい熱くなっていて、思わず、笑みが零れた。
せんぱい、かーわいい。
なんとなく、タカ丸のつもり。
オレが泣いてたら、いい子いい子、って頭を撫でてくれたし、
影で頑張ってたら、えらいねって、ジュースくれたし、
落ち込んじゃった時は、一生懸命慰めてくれた。
オレが勉強苦手だからって、つきっきりで勉強みてくれて、
間違った答え書いても、笑わなかったし、バカにもしなくて、
呆れた顔も、溜息も、何にもなしで、ただ頑張ろうって言ってくれた。
優しくて、可愛くて、オレはそんな君が大好きで。
だから、だから、君に聞いてほしい。
君が、すきです。
もう、オレなんか、なんていわないから。
僕を見て。
ぼくだけを、みてください。
丁度就寝前の一服をしようとした時だった。
いつものように胸ポケットを探り、ペタンとした感触に顔を顰める。
確か食後に愛銃の手入れをしていた時に、テーブルに
置いたな、と、暗がりの部屋から抜け出した。
廊下の角を曲がり、リビングへと向かう。
暗闇に慣れた目は、幾ら少ない光源でも望んだ情報を探し出せるのだが、
リビングからはこうこうと明かりが漏れていて、反射的に目を細める。
夜中だというのに、誰か起きているのだろうか。
念のために、と愛銃に手をやりながら、俺はリビングへと入った。
「おい、まだ起きてたのか」
「ぎゃぁ!」
俺が声をかけると、そこに居た人物―歳の若い女―は、
何とも色気のない、加えて心の底から驚いたと分かる声を上げた。
それから、ギギギッと、俺の居る、つまり後に振り向き、
蒼白だった顔を、今度は土気色に染めながら、口を開く。
「あ、や、どうしたの、こんな、夜中に!」
「煙草、置き忘れたんだよ。確か此処だったと思ってな」
「あー、タバコね!えーと、えーと、ココにはなかった、よ!」
食後に俺が座っていたソファで、冷や汗をかいているこいつを見て、
隠すことなく俺は大きな溜息をつく。
途端にビク、とこいつの肩が大きく跳ねた。
そんなにビビる位なら、分かりやす過ぎる嘘なんてつかなくても良いじゃねぇか。
「寝言は寝て言え。お前が持ってんじゃねーか」
後ろ手にいかにも何か隠し持ってます!と言わんばかりの
体勢のままにこいつを押さえつけると、案の定そこには俺の煙草があった。
しかも、箱からは一本、煙草が転がり落ちている。
「あ!あ…はは!ホントだ!イッツミラクル!」
「…こいつはお前みてぇなガキにはまだ早えぇよ」
こいつはきっと、煙草に興味があったんだろう。
この煙草を吸ってみて、どんなものか知りたかったんだろう。
ガキの頃に、親の目盗んで、悪いことをしてみたくなるように。
ただただ、興味本位で煙草を吸いたくなったんだ。
味を知って、受け入れるか、金輪際ごめんだと拒むのか。
自分で判断したくなったのだろう。
ぽんぽん、とこいつの頭に手を乗せれば、
さっきまでの土気色した顔は、いつの間にか真っ赤に染まって、
口をへの字に曲げて、何とも不服そうな顔をしたこいつと目が合う。
だって、だってさァ、とポツポツ小声で続けるこいつを見ながら、
俺はいつもどおりに煙草に火をつけ、ゆっくりと紫煙を吐き出す。
勿論、こいつに煙を当てるようなことはしない。
だって、何なんだよ、と言葉の先を促してみれば、
こいつは俺の手の中から煙草の箱を奪って、
「あたし、ガキじゃないよ。もうお酒だって飲めるし煙草だって吸っていいんだよ」
と、続けた。
ガキと言われて反発してくる所がまたガキの証拠なんだがな、
そう言いかけて、咄嗟に飲み込んだ。
これ以上機嫌を損ねられては話にならない。
「だから吸おうとしたのか、こいつを」
人のモン勝手に吸うなんて性質(タチ)悪ぃぜ?
そう諭しながら、こいつの手に握られたまんまだった箱に手を伸ばせば、
今まで強く握り締められていたはずの箱は、以外にもあっさりと
俺の手元に返ってきた。
煙草の箱を今度は確実に自分の胸ポケットに押し込んでから、
こいつの顔をもう一度良く見れば、今にも泣きそうな顔をしているこいつは
ポツリ、とつぶやく。
「ご、ごめんなさい…」
身を丸めて小さくなろうとするこいつは、もうしません、と付け加えて、
時折、チラチラと俺の言葉を待つように視線を送ってくる。
だから俺は煙草を少しだけ乱暴にもみ消して、こう繋げるのだ。
「お前にゃぁこの味、こうやっていつでも分けてやってるだろ」
しばらく間があいて、お前がか細い声を出す。
にがい、けど、もっと知りたい。
そんでいいんだ。そんで。
俺が嫌って言うほど教えてやる。
お前の肺(ナカ)まで汚染するほどに
深い深い口付けを送ってやるから、その味で満足してな。
そんな笑顔簡単に見せちゃ駄目だよ、やめようよ!
あたし、心臓破裂しちゃうっていやマジで!
あたし、今呼びかけただけだよね、ね!
古典いまいち良くわかんなかったから、
たまたま隣の席っていう君に声掛けただけだよね!
そ、そんなさぁ、心がほんわかあったかくなるような、
満面の笑み携えて振り向かないでよ…!
「ん、なぁにー?」
なんて、可愛く間延びした言葉使わないでよ男子高校生が!
あんまり可愛くてそれを見て固まった私に向かって、
「どうしたの?何か用事だったよね?」
なんて、今度はちょっと心配したような、気遣い満点笑顔向けないで…!
そんな事されちゃったら、あたしもっと動けなくなっちゃうから!
あぁぁ、と、言葉なのかどうかすら、怪しい言葉ばかりがあたしの
口からは零れていくのだけれど、目の前のこの可愛い人は
きょとんとした顔で、私の用件が告げられるのを待っている。
ようやく、無理やり言葉を押し出すようにして、
古典、いまいちわかんないから、教えてくれる?
と、告げると、あぁ、なぁんだ、って感じで、納得した君は
「いいよ、一緒に勉強しよっか!」
と、あたしの机と君の机をくっつけたんだ。
もちろん、君の顔は
百 万 ド ル の 笑 顔 !
(あたしの心をもてあそぶ、その笑顔は有罪だ!)
もうどうしたいのか自分でも良く分からん。
どうか、どうかおねがいします。
このきもちが、きみにとどきませんように!
そう、何度願ったとしても、全然足りないんだけれど。
願わずにはいられないんだ。
だって、オレじゃ、オレなんかじゃ、君には全然似合わない。
どれだけ頑張ったって、一向に君とお似合いの、オレは想像できない。
君と話をするだけでもスゴクスゴク緊張するし、
(勿論、目なんか見れないよ、恥ずかしいから)
そんなオレに君が笑顔を向けてくれたりなんてするから、
顔がかぁっと、瞬時に熱を持つ。
動きもギクシャク、言葉もつぎはぎ。
あぁぁ、君に、嫌われたくないのに。
全部、ぜんぶぜんぶ空回りだ!
こんなにこんなに君の事が大好きなのに、
大好きすぎて空回って、君に嫌われちゃったらどうしよう…!
部活の友達、みんながオレに向かって、
「ばればれだ、お前の気持ち」
って。
部活のこと、言われてたんだって、分かったんだけど、
(だってその時、ミーティングしてた)
分かってるんだ、分かってるんだけど、
そんなに分かりやすいんだから、もしかして、
なんて考えてしまった。
オレが君の事好きなのがばれて、君が迷惑だ、って感じて。
オレの事、嫌い、になったらどうしよう!って!
(むしろ今だって嫌われてたらどうしよう!)
(だって君はすごくすごく良い人だから!)
だから、だからどうか御願いします!
オレの気持ちが、どうか君に届きませんように!
(もうちょっと、自分に自信が持てるときまでは!)
三橋っぽいのが書きたく(以下略