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暑い。とにかく暑い。
太陽から直接降り注ぐ光はジリジリと私の肌を焼くし、
足元からの照り返しの光には、もわもわと水蒸気が混じっている。
暑い、暑い。
もう直ぐ脱水症状にでもなってしまうんじゃなかろうか、と思った私は、
手持ちのペットボトルのミネラルウォーターを大きく喉を鳴らして飲んだ。
喉元を、汗が伝う。
「暑い」
「あぁ、暑いな。確かに」
私は、隣を歩く男に向けて、盛大に不満を漏らしてみたのだけれど、
男は、そんなのお構いなしにベルメルをふかしながら飄々としている。
男も言葉通り、確かに暑いのだろう、
シャツにはところどころ汗染みが出来ている。
街を行きかう人もそれは同じようで、店先で仕事をしているおじさんは
今日も暑いね、などと、馴染みのお客さんと話している。
でも、それとは比べ物にならないほど、私は汗をかいているという事実。
元々暑いのは苦手だけれど、こんなに汗をかいたのは初めてだ。
どうしてか。
「あのね」
「なんだよ」
答えは単純だ。
「アンタがこんなの着せなければ、私はもっと涼しい外出が出来たのよ!」
ガバァッ
と、大きな音を立てて脱ぎ捨てた、暑さの原因を男に向かってぶん投げる。
私の流した汗を吸いまくって重みを増したそれは、
本来ならふわっと男の下へと届くはずのものだが、
今は物凄く重い。故に真っ直ぐに男の下へたどり着き、大きな音をもう一度立てた。
「はっ、こんなに日差しが出てんだ、大して変わんねェよ」
「うるさいバカ!大体ね、何でこんなの着せられなきゃなんないのよ!あっついの!」
「怒ると余計暑くなんだろが、馬鹿」
そう、私の神経を逆なでするだけして、男はまたその暑さの原因を私に着せる。
今度はご丁寧に(無理やり)袖まで通して。
暑さの原因。
「黒じゃん!熱吸収するじゃん!むしろコレアンタのじゃん!」
「良いじゃねぇか、そんなん」
「よくない!」
それはその男のスーツのジャケット。
もうやだもうやだコレ脱ぎたい!
腕を振り回しながらギャンギャン抗議する私を前にして、
10人居たら10人ともが怒っていると分かる声音で、今度は男が叫ぶ。
目深に被った帽子で見えないけれど、目なんて見なくたって分かる。
(むしろ絶対怖いんだろうから見たくない!)
「ノースリーブにホットパンツだァ?んな格好でお前を外にやれるわけねぇだろ!」
「なにさ過保護!このくらい皆フツー!フツーのファッションなの!」
「幾ら夏だろうとなァ!お前さんにはフツーじゃねぇっての!」
「フツーだもん!」
天下の往来で叫ぶ叫ぶ。
ドスのきいた男の低い叫び声と、暑さにイカレた私の叫び声。
近くに居た人たちがなんだなんだとこっちを見るけれど、
そんなことお構いなしに私は叫ぶ。
こちとら、自分の生死がかかってんだ!
(脱水症状とかマジで洒落にならないぞこの野郎!)
私が一歩も引かないことが分かったのか、
目の前のこの男は、あーもう、しょうがねぇ奴だ、とかブツブツこぼし、
私がそれ以上口を開くよりも先に、私の腕を掴んでぐいと引く。
いつもなら踏ん張りがきいたはずなんだけれど、
私の体からは水分がどんどん蒸発していてそれどころではなかったから、
掴まれた腕も、引かれたとはいえ優しい力だったのにも関わらず、
そのままこの男の胸に軽く激突してしまう。
それと同時に男は私を抱きとめるもんだから、
今残っている力の限りで抵抗してみた所で、離れることは敵わない。
それを理解するまでもなく、体力が持たなくなった私は、
へろへろのまま、男の胸に体重を預けるしかなかった。
抵抗する気も起きずに、ただただ人の体温が熱いなぁと考える。
あぁ、もう駄目、力入らない、死にそう、とぼんやりしていると、
男は、大きな溜息を吐いた後、思ってもみなかった言葉を吐いた。
「んな台詞、盛大にナンパされてるヤツが言っていい台詞じゃねんだよ、解れよ」
私の頭を大きな手が優しく撫でる。
汗のかきすぎで私ですら髪の毛べたべたで気持ち悪いな、と思うのに、
男はその行為をやめようとはしない。
それどころか。
「頼むから、言うこと聞けよ、」
心配してんだ、これでも
なんて、そんな甘ったるい言葉を繋げてきた。
ゆるゆると顔を上げてみれば、前髪が額にくっついてきたのだけれど、
男の手は当然とばかりにそれを避けてくれる。
帽子の下から見たこの男は、なんでこんなに優しい顔をしているんだろう。
なんでこんな状態で、こんなに甘い言葉が吐けるのだろう。
「…暑いって言ってんじゃん」
「いいだろ、別に。どうせもうお互い汗だくだ」
「…そうだけど」
「じゃぁ、帰んぞ」
そう言って、やっとで離れて歩き出そうとしたとき、
私たちを囲んでクレーター状態になっていた街の人々は
ようやく我に返ったのか、道をあけてくれた。
つい、と視線を上げると、周りの人垣を今更ながらに実感したらしいこの男は、
照れ隠しなのだろう、軽い舌打ちと同時に私の頭をガシガシと撫で付ける。
髪がぴんぴん跳ねて、揺れた。
「ジュース、ジュース飲みたい」
「好きなだけ買ってやるから飲め、で、それは脱ぐな」
「はーい」
元気に返事をしたとき、手が男のそれに触れた。
私は何だかそのことが物凄く嬉しくて、男の手を力いっぱい握った。
まぁ女の私の握力なんてタカが知れていて、
男がやんわりと手を握り返す頃には、
私の心の中では、暑さより何より、清々しさのほうが勝っていた。
それこそ、この汗に濡れた男のジャケットが愛おしいほどに。
会社の中なのに暑すぎる時に思いついた。意味は無い。
むしろぶかぶかのジャケットを上に着ているほうがエロいんでないかと
太陽から直接降り注ぐ光はジリジリと私の肌を焼くし、
足元からの照り返しの光には、もわもわと水蒸気が混じっている。
暑い、暑い。
もう直ぐ脱水症状にでもなってしまうんじゃなかろうか、と思った私は、
手持ちのペットボトルのミネラルウォーターを大きく喉を鳴らして飲んだ。
喉元を、汗が伝う。
「暑い」
「あぁ、暑いな。確かに」
私は、隣を歩く男に向けて、盛大に不満を漏らしてみたのだけれど、
男は、そんなのお構いなしにベルメルをふかしながら飄々としている。
男も言葉通り、確かに暑いのだろう、
シャツにはところどころ汗染みが出来ている。
街を行きかう人もそれは同じようで、店先で仕事をしているおじさんは
今日も暑いね、などと、馴染みのお客さんと話している。
でも、それとは比べ物にならないほど、私は汗をかいているという事実。
元々暑いのは苦手だけれど、こんなに汗をかいたのは初めてだ。
どうしてか。
「あのね」
「なんだよ」
答えは単純だ。
「アンタがこんなの着せなければ、私はもっと涼しい外出が出来たのよ!」
ガバァッ
と、大きな音を立てて脱ぎ捨てた、暑さの原因を男に向かってぶん投げる。
私の流した汗を吸いまくって重みを増したそれは、
本来ならふわっと男の下へと届くはずのものだが、
今は物凄く重い。故に真っ直ぐに男の下へたどり着き、大きな音をもう一度立てた。
「はっ、こんなに日差しが出てんだ、大して変わんねェよ」
「うるさいバカ!大体ね、何でこんなの着せられなきゃなんないのよ!あっついの!」
「怒ると余計暑くなんだろが、馬鹿」
そう、私の神経を逆なでするだけして、男はまたその暑さの原因を私に着せる。
今度はご丁寧に(無理やり)袖まで通して。
暑さの原因。
「黒じゃん!熱吸収するじゃん!むしろコレアンタのじゃん!」
「良いじゃねぇか、そんなん」
「よくない!」
それはその男のスーツのジャケット。
もうやだもうやだコレ脱ぎたい!
腕を振り回しながらギャンギャン抗議する私を前にして、
10人居たら10人ともが怒っていると分かる声音で、今度は男が叫ぶ。
目深に被った帽子で見えないけれど、目なんて見なくたって分かる。
(むしろ絶対怖いんだろうから見たくない!)
「ノースリーブにホットパンツだァ?んな格好でお前を外にやれるわけねぇだろ!」
「なにさ過保護!このくらい皆フツー!フツーのファッションなの!」
「幾ら夏だろうとなァ!お前さんにはフツーじゃねぇっての!」
「フツーだもん!」
天下の往来で叫ぶ叫ぶ。
ドスのきいた男の低い叫び声と、暑さにイカレた私の叫び声。
近くに居た人たちがなんだなんだとこっちを見るけれど、
そんなことお構いなしに私は叫ぶ。
こちとら、自分の生死がかかってんだ!
(脱水症状とかマジで洒落にならないぞこの野郎!)
私が一歩も引かないことが分かったのか、
目の前のこの男は、あーもう、しょうがねぇ奴だ、とかブツブツこぼし、
私がそれ以上口を開くよりも先に、私の腕を掴んでぐいと引く。
いつもなら踏ん張りがきいたはずなんだけれど、
私の体からは水分がどんどん蒸発していてそれどころではなかったから、
掴まれた腕も、引かれたとはいえ優しい力だったのにも関わらず、
そのままこの男の胸に軽く激突してしまう。
それと同時に男は私を抱きとめるもんだから、
今残っている力の限りで抵抗してみた所で、離れることは敵わない。
それを理解するまでもなく、体力が持たなくなった私は、
へろへろのまま、男の胸に体重を預けるしかなかった。
抵抗する気も起きずに、ただただ人の体温が熱いなぁと考える。
あぁ、もう駄目、力入らない、死にそう、とぼんやりしていると、
男は、大きな溜息を吐いた後、思ってもみなかった言葉を吐いた。
「んな台詞、盛大にナンパされてるヤツが言っていい台詞じゃねんだよ、解れよ」
私の頭を大きな手が優しく撫でる。
汗のかきすぎで私ですら髪の毛べたべたで気持ち悪いな、と思うのに、
男はその行為をやめようとはしない。
それどころか。
「頼むから、言うこと聞けよ、」
心配してんだ、これでも
なんて、そんな甘ったるい言葉を繋げてきた。
ゆるゆると顔を上げてみれば、前髪が額にくっついてきたのだけれど、
男の手は当然とばかりにそれを避けてくれる。
帽子の下から見たこの男は、なんでこんなに優しい顔をしているんだろう。
なんでこんな状態で、こんなに甘い言葉が吐けるのだろう。
「…暑いって言ってんじゃん」
「いいだろ、別に。どうせもうお互い汗だくだ」
「…そうだけど」
「じゃぁ、帰んぞ」
そう言って、やっとで離れて歩き出そうとしたとき、
私たちを囲んでクレーター状態になっていた街の人々は
ようやく我に返ったのか、道をあけてくれた。
つい、と視線を上げると、周りの人垣を今更ながらに実感したらしいこの男は、
照れ隠しなのだろう、軽い舌打ちと同時に私の頭をガシガシと撫で付ける。
髪がぴんぴん跳ねて、揺れた。
「ジュース、ジュース飲みたい」
「好きなだけ買ってやるから飲め、で、それは脱ぐな」
「はーい」
元気に返事をしたとき、手が男のそれに触れた。
私は何だかそのことが物凄く嬉しくて、男の手を力いっぱい握った。
まぁ女の私の握力なんてタカが知れていて、
男がやんわりと手を握り返す頃には、
私の心の中では、暑さより何より、清々しさのほうが勝っていた。
それこそ、この汗に濡れた男のジャケットが愛おしいほどに。
会社の中なのに暑すぎる時に思いついた。意味は無い。
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