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一回しか言わねぇから、よく聞けよ!
そう言われて、しばらく大人しく待ってみたけれど、
その先の言葉は、一向に私の耳には届いてこない。
苦虫を噛み潰したかのような、それでも頬に朱がさした顔で、
目の前のこの男は、その先に続く言葉を繋げようとする。
ニヒルというのが一番しっくりくるような笑い方をするこの男は、
普段のクールさ、冷静さをどこかに落っことしてきたんだろうか。
あぁ、男らしさとかも、かもしれない。
あー、だの、うー、だの。
口をもごもごと動かして、つまりその、なんだ、とつぶやく。
その間、じぃっと私はその男の挙動を見ているわけだが、
目深に被っている男の帽子の影から、時折見える視線は、
私のそれにぶつかると、即座にそらされてしまう。
どうしたの、と、これから男が繋ごうとする、分かりきった言葉すら
何にも気がつかないフリをして、私は問うた。
ただ、この男がどういう反応を返すか、純粋に知りたかった。
惚れたハレたの話を好まずに、今まで付き合った女すべてと、
もっと割り切った男女の関係を望んできた、この男の反応が。
それ以前に、私がlikeのスキと、loveの好きの違いが
あいまいすぎて、いまいち良く分かってなかったからなのかもしれないけれど。
身長の高いこの男の瞳を見ようとしたのだけれど、
目深に被った帽子が邪魔で邪魔で仕方なくて、
私はその場から1歩、2歩と、男の方へ歩いていく。
男はといえば、私の近づく気配を敏感に察知して
(当たり前の話だ、別に気配を消そうとすらしていないのだから)
僅かに後ずさったのだが、そう、ほんの僅かだ。
覗き込んだ帽子の隙間から、男の視線が私に降り注ぐ。
ソレはとても熱っぽく、尚且つ優しく私の上に降るものだから、
私はそのまま、男から視線をそらせなくなってしまった。
その瞬間、だ。
お前の事が、すげぇ好きんなっちまってたんだ。
あまりにも真剣で、あまりにも色っぽい声音で男は囁くもんだから、
不覚にも私は、この男に向かって、言葉を返せずにいる。
どうしてくれんだ、こんなにしてくれやがって。
でも、すげぇ好きんなっちまってんだよ、お前の事。
なんて続けた男に向かって
一度しか言わないって言ったくせに、
と、茶化すことすら出来なくなってしまっている。
この男の表情や、言葉の含む熱っぽさ。
何もかも見たことの無いモノばかりで、私は如何して良いのか戸惑う。
ただ勿論、答えなど見つかるわけも無くて、
返事が無いことを、どうやら肯定と捕らえたのか、この男は
私の唇に自分のそれをふわりと軽く合わせては、
さっきよりも幾分苦しそうな表情で私を見る。
私自身、顔が熱くなっていることに気づくのはまだもう少し先の話で、
唇が深く深く重なってきた後なのだけれど、
男も私の答えを聞かぬままだったし、
私もスキと好きの違いが未だによく分かっていなかったから、
もうしばらくは、この男のくれる、激しいようで甘く優しい
それでいて、心臓がざわついて仕方ないこの行為を
楽しんでも良いんじゃないかと思った。
スキと好きの違いが分かる、その時まで。
きっと、それはそう遠くないミライ。